2026.01.04
【徒然革】
革を語るメルマガ:
今年の十二支は“革のダイヤモンド”
日常生活の役に立たない、
マニアックな革のうんちく知識を
気ままにつぶやくメルマガ
「徒然革(つれづれがわ)」
つれづれなるままに日暮らし、
PCに向かひて、
心にうつりゆく革のよしなしごとを
そこはかとなく書きつくれば、
あやしうこそ革狂ほしけれ——
かつて「副店長」の肩書で、数々のマニアックな革のうんちくコラムを担当した古参スタッフが、日常生活の役に立たない、知るだけムダな革や鞄の小ネタを気まぐれにお届けします。
今回の革メルマガでは2026年最初の号として、今年の十二支である「午」=「ウマ」の皮革……つまり、「コードバン」について詳しくお届けいたします。ウマが合うといいのですが。
年初めの健康祈念のために、ニンジンジュース(100%)を飲みながらご笑覧ください。
最初は違う動物の革だった「コードバン」
革好きの皆さまでしたら、その名を知らない方はいないであろう“革のダイヤモンド”こと「コードバン」。ご存知の方も多いと思いますが、その名前はスペインのCordova(コルドバ)地方に由来します。その歴史は少なくとも7世紀ごろまで遡れ、西ゴート族(ゲルマン民族の一つ)の時代に革鞣しが盛んになり、その後にイベリア半島を支配したムーア人(イスラム教徒の集団)によって、北アフリカ・リビア地方の革加工技術が持ち込まれたようです。
さて、今では馬革の代名詞のように語られる「コードバン」ですが、そのコルドバ地方で元々つくられていた名産の革(“Cordobanes”と呼んだらしい)は、何とヤギ革(他に羊や鹿の革も)。ウルシのタンニンで鞣した後に金箔や着色、ケービングなどで装飾を施し、まばゆいばかりに絢爛に仕上げたもので、武具や本の装丁、家具やインテリアの装飾などに使われていたようです。
スペイン・コルドバのローマ橋とメスキータ
Adobe Stock / Mik Man
この“元祖”コードバンは王族や貴族の間で人気を博し、15~16世紀ごろまでにフランスやイタリア、オランダでも同様の革がつくられるように。さらにドイツや北欧まで技術が広がるとともに、原皮のヤギ革が枯渇するようになってきました。
その代用品が求められる中、経緯は不明ですが、馬の尻の皮下に眠る緻密な繊維層(“shell”)を鞣して磨き、ピカピカに仕上げる製法がドイツで開発されます。当初は「鏡面加工品」を意味する“Spiegelware”(シュピーゲルウェア)と呼ばれていたこの革が、現代のコードバンのルーツのようです(※諸説あり)。
その後、19世紀半ばにはついに「コードバン」という言葉が馬の尻の革を指すようになり、その丈夫さから戦争の装備品でも重宝されるようになります。しかし戦争の主体が馬から戦車に変わり、またインテリアでもより安価なプリント壁紙の登場で衰退したため需要が激減し、コードバンの用途が思わぬ方に移り変わっていきます。
今のようなコードバンが生まれたのは20世紀
新しいコードバンの用途は、なんと革砥(かわと:研磨剤を塗って剃刀を研ぐ革のストラップ)。コードバンの丈夫さとしなやかさ、そしてきめの細かさが、微妙にカーブする繊細な剃刀の刃を研ぐのにぴったりで、たちまち人気を博します。
なにせ、ほとんどの男性が剃刀で髭を剃っていた時代。どこの理髪店にも革砥がぶら下がっていたのです。ところが、20世紀初頭にいわゆる「安全剃刀」が普及すると革砥は一気に廃れてしまいます。
またしてもコードバンが冬の時代を迎えるかに思われましたが、禍福はあざなえる縄の如し。コードバン製造の技術と事業をアメリカに持ち込んだドイツとオランダの革鞣し職人が、高級紳士靴の素材にするために、コードバンに魔改造を施します。
彼らは、紳士靴の素材に最適な革になるよう鞣し方と仕上げ方を改良し、それまでの固くて厚かったコードバンを柔らかく鞣し、丈夫でしなやかに仕上げることに成功。そうして今のように、丈夫でありながらフィット感が高く、磨くとピカピカになる“革のダイヤモンド”ができたのです。
つくりからして普通じゃないコードバン
Adobe Stock / Akio Mukunoki
さて、そんな波乱万丈の来歴を持つコードバンですが、一体どうやってこんな素材と仕立て方を思いついたの?と思うほど、その原皮と製法も普通じゃありません。
まず原皮となるのは、臀部の皮膚の下に埋もれている緻密な繊維層。これは厳密に言うと「皮」ではなく、かといって「肉」とも言い難い特殊な部分。業界内では「シェル」「カネ」などと言われています。
この緻密な繊維層は農耕馬の品種から採れることが多いのですが、個体差が大きく、片尻からしか採れなかったり、ほとんどなかったりすることも珍しくないとのこと。
ちなみに、通常の革はコラーゲン繊維が皮膚の面と並行に走っているのですが、「シェル」「カネ」の部分は、なんと面と垂直にみっちりと林立しています。竹の繊維を想像していただくと分かりやすいでしょうか。これがコードバンの大きな特徴で、繊維が面に垂直に並んでいるため、凹に曲げられてもしわができにくいが、凸に曲げられると繊維の並びが開くので白っぽくなるということが起こります。
コードバンをつくるには、この「シェル」「カネ」を含む尻部分の皮をタンニンで鞣した後、表裏(主に裏側)から削り込んで露出させないといけません。これがまた大変な工程で、「シェル」「カネ」は1mmくらいの厚さしかないため、破いて台無しにしてしまわないよう、少しずつ時間をかけて慎重に削り込んでいく必要があります。
そうして無事に削り出した「シェル」「カネ」部分の裏面、つまり肉側の面を、硬質な瑪瑙の玉で滑らかに磨いていきます。これが「グレージング」という工程で、面と垂直に林立している繊維の頭を均すことで、竹の断面を磨いたようにつやつやの光沢が生まれるわけです。同じく裏側を表に使うスエードがケバケバなのとは全く違っていて、面白いですね。
このような特殊な素材と製法のため、コードバンは今でも製造が非常に難しく、世界で数社しかタンナーがありません。その中でも、TSUCHIYA KABANが採用している「水染めコードバン」は世界でも希少なアニリン染めのコードバンで、水性染料ならではの透明感のある色合い、透けて見える革の自然な表情が魅力。すでにお持ちの方は、改めて手に取って眺めてみてくださいね。

