2026.02.22
ブランドの「顔になる革」
TSUCHIYA KABANを代表するベストセラーシリーズとして、20年以上の歴史を誇る「トーンオイルヌメ」。そのメイン素材が、TSUCHIYA KABANオリジナルのレシピでつくられている「オイルヌメ革」です。
それにしても一体なぜ、TSUCHIYA KABANはこの革を使おうと考えたのでしょうか。それは、「革の魅力をたっぷり楽しめる革」をブランドの"顔”としたい、という思いからでした。
当時の日本では珍しい「柔らかなヌメ革」
「オイルヌメ革」を使い始めた20年ほど前の日本では、傷跡やシワなどがなく、色もつやも表情も均質で、ずっと風合いの変わらない革が「良い革」とされていました。
でも、TSUCHIYA KABANがお客さまにお届けしたいと考えていたのは、一枚一枚に個性があって、使い方に合わせて色もつやも表情も変わっていく「革本来の魅力」を持った、ナチュラルな風合いの革だったのです。
ナチュラルさが魅力の革と言えば、当時のTSUCHIYA KABANにもヌメ革がありました。ところがヌメ革は固いので、かっちりとしたビジネス鞄には良いのですが、ソフトな形のカジュアルな鞄には不向きなのです。
そこで目指したのが、もっと形の自由度が高い“柔らかいヌメ革”の採用でした。ナチュラルな風合いを持ちながら柔らかい革があればデザインの幅が圧倒的に広がり、より多彩な鞄がつくれます。当時の日本ではまだあまり使われていなかった“柔らかいヌメ革”を、ブランドの顔にしたいと考えたのです。
「ヌメ革なのに柔らかい」という理想形
革を柔らかくするために、「オイルヌメ革」では2つの方法を採用しています。まず1つ目は、革に加えるオイルの量を増やすこと。理想の柔らかさとコシを持つ革にするために、試行錯誤を重ねた結果、なんと他の革の3倍のオイルを含ませることになりました。
もう一つ取り入れたのは「空打ち」という工程。大きな回転ドラムの中に革だけを入れて揉みくちゃにすることで革の繊維をほぐし、柔らかくします。
この2つの方法で、他の魅力も加わりました。まず、革にたっぷりのオイルを含ませることで、まるで何年も使い古したようなアンティークな風合いに。手触りも、しっとりと手になじむ心地良い感触に仕上がりました。
また空打ちで揉まれることにより、表面に自然な「シボ」模様が刻まれることに。それも、部位によって革の繊維密度が違うことで大小さまざまな表情が生まれ、一枚一枚の革の個性がさらに増すこととなりました。
時間をかけて「革の魅力」を発信
でも、この革の魅力が最初から全面的に受け入れられたかというと、必ずしもそうではありません。当時の日本では、見た目がなるべく均一で、使っても変化のない革こそが「良い革」だという意見が主流でした。
1つの鞄の中でもシボの表情が異なったり、同じ色でも色合いが微妙に違ったり、使っていくうちに革の色艶が変わったりする──今でこそ、「オイルヌメ革」の魅力として受け入れられているこれらの特徴が、当初は「欠点」として見られることもあったのです。
しかし、土屋鞄の店舗やWEBサイト、メルマガにおいて、そうした自然な革ならではの特性こそが本来の革の魅力であることをお伝えしていくと、「オイルヌメ革」のファンが少しずつ増えていきました。
※こちらは販売終了モデルです
特にシボについては、初めは「なるべくシボのないものを」とよく言われていました。ところが、次第に「シボが良く出ているものを」という方が増え、1つの製品の中にいろいろなシボやシワの表情が混在することを楽しまれる方も増えてきたのです。
エイジング(経年変化)も、味わいが出てきたことを喜んで、わざわざ店舗スタッフに見せに来られる方もいらして、エイジングを楽しめる革の代表格に。今では、多様な方にご愛用いただける素材になりました。
柔らかいヌメ革だから可能になった形
「オイルヌメ革」を使えるようになったことで何よりも大きかったのは、革が柔らかいことで可能となるデザインやつくりの広がりでした。固いヌメ革ではつくれない、ソフトでカジュアルなデザインの鞄や小物がつくれるようになったのです。
例として、「トーンオイルヌメ」シリーズを代表する第1号製品「オイルヌメ ショルダー」(現「トーンオイルヌメ ショルダー」)を見てみましょう。
この鞄は、全体を裏返しで袋状に縫製しておいてからひっくり返し、革の裁断面や縫い目を内側に隠すことで柔らかなシルエットに仕上げます。大きなフラップも同様。これは柔らかい革だからこそできる製法です。
自分だけの色つやの熟成や
「くったり感」が愛着を深める
この柔らかなつくりと、使うほど柔らかさを増していく「オイルヌメ革」の掛け合わせが、それまでの土屋鞄の製品にはない、新しい魅力を生み出しました。使い込んで革が色つやを重ね、なじんでくるにつれて、何とも言えない「くったり感」が出てくるのです。
さまざまなエイジングの中でも、使う人それぞれのクセが出やすいのがこの「くったり感」。それだけ、「自分だけの相棒」という愛着が湧きやすくなります。
ちなみに「トーンオイルヌメ」の製品の多くは、この「くったり感」が出てくることを想定してデザインされています。大きな面を配したシンプルなデザインの製品が多いのは、革がくったりしてきたときに、表情がより魅力的に見えるためです。
お客さまにもスタッフにも愛され続ける革
こうして誕生から20年以上が経つ間、「オイルヌメ革」にも時代の要請に合わせた細かな改良がいくらか施されてきましたが、基本的なレシピや工程は変わっていません。TSUCHIYA KABANでこれほど長く愛され続けている革は、他にヌメ革くらいしかありません。
TSUCHIYA KABANが理想とする革への思いを詰め込んだこの「オイルヌメ革」は、私たちスタッフにとっても思い入れの深い素材です。これからもブランドを代表する革素材の一つとして、皆さまに愛し続けていただければ幸いです。

